夏はよる。
月の頃はさらなり、やみもなほ、
ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただひとつふたつなど、
ほのかにうちひかりて行くもをかし。
雨など降るもをかし。
遠山にかゝる白雲は、散にし花のかたみなり。
青葉に見ゆる梢には、春の名残ぞおしまるゝ。
比は卯月廿日あまりの事なれば、
夏草のしげみが末を分いらせ給ふに、
はじめたる御幸なれば、御覧じなれたるかたもなし。
人跡たえたる程もおぼしめししられて哀れなり。
五月、あやめふく比、早苗とるころ、
六月の比、あやしき家に夕顔の白く見えて、
蚊遣火ふすぶるもあはれなり。
六月祓またをかし。
雨の季節、束の間の晴間に眺める星座は少しずつ夏の姿に移り始めている。うしかい座の東には、ギリシャの英雄を表すヘルクレス座に引き続いて、こと座、はくちょう座の夏の星座が昇る。さそり座は南東の空にあり、さそりの腹に位置する一等星アンタレスが意外な高さに赤く光る。北の空では逆立ちしたおおぐま座が北極星から伸び上がるこぐま座を慈しむように眺める位置にある。
穀物の取り入れをつかさどる女神ペルセフォネの姿。純白に輝く一等星スピカはラテン語で「穂先」の意味。日本では真珠星などと呼んでいた。
七月は新暦の七夕。雨あがりの凪いだように湿った空に見上げる星々は、またたきも少なく落ち着いている。夜も更ければ、夏の天の川も高く昇り、頭上よりやや東を北から南に流れる。都会の灯火を離れた土地では、入り組んだ天の川の光の帯が雲のようにも見える。梅雨があければ、織女星(ベガ、こと座)、牽牛星(アルタイル、わし座)、デネブ(はくちょう座)のつくる夏の大三角が見事である。
楽人オルフェウスは妻エウリディケの死後、悲しみのあまり琴を奏でていたがやがて死に、「琴」だけは天上にあげられ星座になったという。
黄道に沿って並ぶ星座(黄道十二宮)の一つであるいて座はにぎやかな星座だが、一等星がないためかあまり馴染みがない。さそり座の東に、ひしゃくを伏せたような形の南斗六星が目印である。このいて座に近くの天の川の中に私達の銀河系の中心がある。立秋を過ぎてもまだ暑さは続くが、下旬の午後八時頃には、秋の星座の代表であるペガスス座とアンドロメダ座が東の空に姿を現す。
女神アルテミスを犯そうとしたオリオンは、女神の放った大さそりに刺し殺されたという。赤く輝く一等星アンタレスはさそりの心臓にたとえられる。