春はあけぼの。
やうやうしろくなり行く、
山ぎはすこしあかりて、
むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。
見とほしあらはなる、廂の御座にゐ給へる人、
ものにまぎるべくもあらず、
気高く、清らに、さと匂ふ心ちして、
春のあけぼのゝ霞の間より、
おもしろきかば桜の咲きみだれたるを見る心地す。
もののあはれは秋こそまされと、
人ごとに言ふめれど、それもさるものにて、
今一きは心も浮きたつものは、春の色気にこそあめれ。
鳥の声などもことの外に春めきて、
のどやかなる日影に、墻根の草もえいづるころより、
やゝ春ふかく霞みわたりて、
花もやう〱けしきだつほどこそあれ、
折しも雨風うちつゞきて、こころあわたゝしく散り過ぎぬ。
青葉になり行くまで、
よろづにたゞ心をのみぞ悩ます。
傾いた天の川に引かれるように、にぎやかだった冬の星座が西に退くと、春の星座を代表するしし座がその大鎌を立てる。疑問符の?を裏返しにしたような形が特徴である。北東の空にはおおぐま座が高く昇り、やがてうしかい座、おとめ座も姿を見せ始める。春の星座はどれも立派で覚えやすい形をしてるが、春霞にかすんでしまうためか、真冬の星空ほどのはなやかさは感じられない。
ネメアの谷に住む人喰い獅子は、ヘラクレスと三日三晩の死闘の末、退治された。大神ゼウスは彼の武勇を称え、獅子を星座にした。
北斗七星のひしゃくの柄のそりに沿って弧を描くように、東の空にうしかい座のアルクトゥルス、さらに南におとめ座のスピカが明るい光を放つ。この二つの一等星としし座の二等星デネボラとで春の第三角をつくる。南の空には三等星ばかりが四つ並んだからす座がこじんまりと光る。西に傾いた冬の星座を見ることができるのもほぼ今月限りである。
ゼウスの子アルカスを産んだ妖精カリストはゼウスの后ヘラの嫉妬をかい大ぐまにされる。ゼウスは息子を小ぐまの姿にし、母子を星座にしたという。
五月の爽やかな気候は時々、透明な大気を通してすばらしい星空を与えてくれる。アルクトゥルスは頭上に金色に輝き、ヘラクレス座のまわりにある普段は見過ごしてしまう星々も輝きを増して見え、様々な形を想像させる。レグルス(しし座)と同様に、スピカ(おとめ座)や深更になると昇るアンタレス(さそり座)も黄道の近くにあり、惑星の通り道にあたる。北東に低くベガ(こと座)がある。
ウシの番をする牧夫の姿。一等星アルクトゥルスはギリシャ語で「クマの番人」の意味。日本では古くから麦を刈るころ頭上高く輝くので麦星と呼んだ。