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親族語彙

挿絵:親族
  • 現代日本語の親族語彙には、チチ・ハハ・オトウサン・オジイサン・アニ・オトウト・オニイサン・ツマ・ムスコ・イトコなどがある。このうち、オトウサン・オジイサン・オニイサンは話者が直接その親族に「ねえオトウサン・・・」のように呼びかける時に用いる”親族呼称”であるのに対し、チチ・ハハ・アニ・オトウト・ツマ・ムスコなどは言及する時に用いる”親族名称”であり、呼びかけには使えない(目下に対する親族呼称は存在しない)。オジは親族名称であるが、オジサンは親族呼称として用いられる。一方、本来は親族呼称であるものを「山田君のオカアサン」のように親族名称に転用することもよくあるが、話者が自分の親族について他人に語る場合に「私のオトウサンは・・・」のように言うのは避けるべきだとされる。
  • オジ・オバやイトコなどは大和ことばとしては年上か年下かによる区別はない(イトコは男女の区別もない)が、漢字表記においては古代中国の体系に準じて、伯父(自分の親よりも年上のオジ)・叔父(自分の親よりも年下のオジ)、従兄(自分よりも年上の男のイトコ)、従妹(自分よりも年下の女のイトコ)、再従兄(自分よりも年上の男のハトコ)、のように書き分ける。
  • 配偶者を表す語には、ツマのほかに「女房・細君」など、オットのほかに「主人・亭主・旦那」などがある。
  • 古代日本語では、今では用いられないカゾ・イロセ・イロモ・イロネ・イロト・セウト・イロハなどの語がある一方、現代と語形の変わらないイモウトは平安時代には年の上下を問わず用いられた。また、各地の方言では、本図に挙げられていないさまざまな親族語彙が見られるが、ここでは本辞典に載っている現代共通日本語の語彙に限定して図示した。

図の見方

  • = は婚姻関係、― は親子関係、[ はキョウダイ関係、----- は配偶者の親族関係を表す。
  • キョウダイ関係においては、年上の人物は右側、年下の人物は左側に示してある。
  • 黒刷の語は男性、色刷の語は女性を表す。ただし、マゴ(孫)以下の語は便宜的に黒刷とした。
  • 片仮名書きは和語、( )内はこの和語に対応する漢字表記。
    < >内は別称を表す。
  • 〔 〕内は”親族呼称”を表す。
  • この図は、自己が男性の場合は配偶者はツマ(妻)、自己が女性の場合は配偶者はオット(夫)となる。
  • 母方の親族は省略したが、父方と全く同一である。
  • 本図では広く一般に用いられる語を中心に掲出したが、中には使用される地域が限られている語もごく一部含んでいる。

身体語彙

  • 現代日本語において人体をおおまかに区別する時、アタマ・ドウ(胴)・テ・アシの四つに分ける(大区分)が、これらの各部位はそれぞれもっと細かく分けられる(中区分)。例えば大区分におけるテは中区分ではウデとテに分けられる。すなわち、テという語は、広義では腕の付け根から指先までをさし、狭義では手首から先の部分のみをさす。アタマ・アシも同じく広狭二義の用い方がある。
  • 中区分よりもさらに細かく区分した名称(小区分)もある。例えばウデはさらにニノウデ・ヒジなどに分かれる。
  • 下図では、医学・解剖学用語(「眼球」「臀部(でんぶ)」「腋窩(えきか)」など)、俗語・幼児語・女性語の類(「ヒザコゾウ」「オッパイ」「オデコ」「オナカ」など)、古語(「コウベ」「ヌカ」「ノミト」「アギト」「タダムキ」など)は除外し、現代日本語でよく用いられる代表的な身体名称のみを示してある。
挿絵:身体語彙

身体語彙を使った言葉

  • あたま(頭)
    • 頭隠して尻隠さず
    • 嘘と坊主の頭はいったことがない
    • 正直の(こうべ)に神宿(やど)
    • 頭寒足熱
    • 低頭平身
    • 徹頭徹尾
    • 実るほど頭の下がる稲穂かな
  • かみ(髪)
    • 握髪吐哺(あくはつとほ)
    • 鶴髪童顔(かくはつどうがん)
    • 危機一髪
    • 苦髪苦爪(くがみらくづめ)
  • かお(顔)
    • 親の顔が見たい
    • 顔面蒼白
    • 厚顔無恥
    • 破顔一笑
    • 仏の顔も三度
    • 面従腹背
  • まゆ(眉)
    • 遠山の眉
    • 眉目秀麗
  • まつげ(睫)
    • 秘事は睫
    • 睫を読まれる
  • め(目)
    • 雲煙過眼
    • 男の目には糸を引け、女の目には鈴を張れ
    • 鬼の目にも涙
    • 餓鬼の目に水見えず
    • 障子に目あり
    • 泣く子も目をあけ
    • 引目鉤鼻(ひきめかぎばな)
    • 細い目で長く見よ
    • 惚れた目には痘痕(あばた)(えくぼ)
    • 見れば目の毒
    • 目は口ほどに物を言う
    • 闇夜に目あり
    • 欲に目が(くら)
    • 夜目遠目笠の内
  • みみ(耳)
    • 潁水(えいすい)に耳を洗う
    • 壁に耳
    • 金言耳に逆らう
    • 疾雷(しつらい)耳を(おお)うに及ばず
    • 飛耳長目
    • 耳を掩いて鈴を盗む
    • 耳を信じて目を疑う
  • はな(鼻)
    • 木で鼻を(くく)
    • 縦鼻横目(じゅうびおうもく)
    • 時の用には鼻をも()
    • 鼻先思案
  • くち(口)
    • ()いた口が(ふさ)がらぬ
    • 開口一番
    • 口では大阪の城も建つ
    • (なお)乳臭(にゅうしゅう)あり
    • 口に蜜あり、腹に剣あり
    • 口も八丁手も八丁
    • 口を守ること(かめ)の如くす
    • 口耳四寸(こうじしすん)
    • 死人に口なし
    • 民の口を防ぐは水を防ぐよりも(はなは)だし
    • 人の口には戸が立てられない
    • 二人口(ふたりぐち)は過ごせるが一人口は過ごせぬ
    • 閉口頓首(とんしゅ)
    • 病は口より()(わざわい)は口より()
    • 良薬口に(にが)
  • くちびる(唇)
    • 朱唇晧歯(しゅしんこうし)
    • 唇歯輔車(しんしほしゃ)
    • 物言えば唇寒し秋の風
  • あご(顎)
    • 顎で縄を追う
    • 顎振り三年
  • くび(首)
    • 鬼の首を取ったよう
    • 財布の(ひも)を首に()けるよりは心に掛けよ
    • 首尾一貫
    • 真綿で首を絞める
  • かた(肩)
    • 肩摩轂撃(けんまこくげき)
    • 偏袒右肩(へんたんうけん)
  • せ(背)
    • 背に腹はかえられぬ
    • 遠くの火事より背中の(きゅう)
  • むね(胸)
    • 三平開胸
    • 白刃(はくじん)胸を(おか)せば、流矢をみず
    • 胸に一物
  • はら(腹)
    • 痛くもない腹を探られる
    • 一腹一生
    • 恩の腹は切らねど情けの腹は切る
    • 聞けば聞き腹
    • 杓子(しゃくし)で腹を切る
    • 鼓腹撃壌(こふくげきじょう)
    • 赤心(せきしん)()して人の腹中に置く
    • 大食腹に満つれば学問腹に()らず
    • 腹が減っては(いくさ)はできぬ
    • 腹時計
    • 腹の皮がよじれる
    • 腹の虫がおさまらない
    • 腹も身の内
    • 抱腹絶倒
    • 股を()いて腹に()たす
  • へそ(臍)
    • 臍が宿替えする
    • 臍で茶を沸かす
  • こし(腰)
    • 五斗米に腰を折る
    • 話の腰を折る
  • しり(尻)
    • 尻に帆を掛ける
    • 屁をひって(しり)すぼめ
  • うで(腕)
    • 赤子(あかご)の腕をねじる
    • 腕一本(すね)一本
    • 切歯扼腕(やくわん)
    • 暖簾(のれん)に腕押し
  • ひじ(肘)
    • 肘を曲げる
    • 三度(みたび)肘を折って良医となる
  • て(手)
    • 兄弟(けいてい)は左右の手なり
    • 上手(じょうず)の手から水が()れる
    • 大海を手で()
    • 近火(ちかび)で手をあぶる
    • 手が空けば口があく
    • 手の舞い足の踏む所を知らず
    • 徒手空拳
    • 紅葉(もみじ)のような手
    • 焼き餅焼くとて手を焼くな
    • 両手に花
  • ゆび(指)
    • 虚拳実指
    • 月を()せば(ゆび)を認む
  • また(股)
    • 韓信の股くぐり
    • 欲の熊鷹(くまたか)股を裂く
  • ひざ(膝)
    • 膝行三度(しっこうさんど)
    • 七重(ななえ)の膝を八重(やえ)に折る
    • 膝とも談合
  • すね(臑)
    • 親の臑を(かじ)
    • 蚊の臑
    • 臑から火を取る
  • あし(足)
    • 足手息災(あしでそくさい)
    • 怠け者の足から鳥が()
    • 病み足に腫足(はれあし)